こんばんは、ブルです。
今回はホテルスタッフ時代にあった夜勤のエピソードをお話したいと思います。
夜勤へのあこがれ
「まだ起きてる?」
「まだ起きてるぜケケケケケ」
子どものお泊り会や修学旅行かなんかで、真っ暗な部屋で先生が見回りにきたのをやり過ごしたあとにこんな会話が続くことがよくありました。
普段夜をともに過ごすはずのない友達が、寝る時もいっしょにいるというのは子どもながらにワクワク興奮したものです。
たいてい夜も寝ずに枕投げをやってみたり、秘密の話とか馬鹿話に花を咲かせるんですよね。
あの頃は無邪気で楽しかったな…
普通のサラリーマンであれば日をまたいで仕事をするなどということは基本ありえない話でしょう。
最近では過労死や過労による自殺などで労働環境の深刻化が取り沙汰されているますからね。
どことなく昼夜逆転している仕事に興味をそそられるのは、子どもの頃のわくわくを覚えているからでしょう。
ナイト勤務の業務内容
私が勤務していたホテルの場合は、夜の10時以降ナイト勤務者がフロントを一人で任されるようなシフト組みになっていました。
夜勤が終わる朝8時まで味方がいないわけです。
ナイト勤務駆け出しの私からすれば、宿泊客がつらい試練を与える敵にしか見えません。
業務内容は、翌日の宿泊客が来た時に渡すカードキーの準備や、夜遅くにチェックインするゲストのお出迎えといったところです。
酔っ払いの相手
あとは稀にですが酔っ払って帰ってくるお客様の相手をすることもありましたね。
おっちゃんが自分の部屋がわからないからと言い出してロビーのソファーで寝はじめまして、「ここはどこじゃー!!」なんて叫び出す始末。
名前を聞いているのに頑なに住所を伝えてくるおっさん。タクシーと間違えてやがるな!?
もうこうなったら放置プレイです。
クレーム客から比べれば酔っ払いなんてクリボーみたいなもんですよ。
ホテルの場所は繁華街ではなくてどちらかというと郊外にあったので酔っ払いもたまにしかいませんでしたね。
夜は比較的で静かでゆっくりさせていただきました。
逆に朝は早くて、6時を過ぎたくらいからレストランに朝食を食べにやってくる人や、チェックアウトする人で忙しくなってきました。
この辺はレストランの営業時間にもよるでしょうが。
ホテルの精算が前払いか後払いかはホテルによって様々なようですが、ここはチェックアウト時の精算でした。
夜勤一人体制にしたら朝一人でお金触んなくちゃならないんだからまだスタッフが数人いるチェックイン精算にしてくれたほうがなんぼか気が楽なんですけどね。
火事の恐怖
ナイト勤務中何が一番怖いかって、それは火事です。
ホテルマンたるもの宿泊客の安全が何にも増して最重要なわけで、火事になったからって真っ先に逃げ出すわけにはいきません。
言い換えるなら、宿泊客全員の安否の確認ができるまでは避難できないということです。
一回夜中に火災報知器が鳴ったことがあるんですよ。
深夜帯は一人体制で心細い、こういう時に限って狙ったかのように警報が鳴るんですよね。
そもそも一人しかいないのに非常時にスタッフがフロントから抜けたらパニックになった宿泊客どうすんの?って話しですよ。
ホテルオープン前の研修中は「たとえ火の中水の中、火消しのブルと呼んでくれ!」という気構えだったんですが、実際その状況になれば話は別です。
深夜のハプニング
深夜の火災警報、頼る味方はいない!
いや、待てよ。そういえば一人助っ人がいたな。
夜警の警備員の安田さんだ。
安田さんはおそらく定年を迎えているであろうおじいちゃん。
シルバー人材センターから派遣されてきたのだろうか、強盗がきたら逆に人質に取られそうな存在だ。
おじいちゃんに警棒をふりかざされるより、小学生が木の枝を振り回して全速力で走ってくるほうがよっぽと怖いというやつです。
いや、きっと火事とかそういうのには経験がものをいうはず!だからきっと頼りになる!
「安田さん!」
すがる思いで名前を叫ぶ。
するとさすがは長老!察してくれたのか、
「私が見てきます!ブルさんはフロントにいてください!」
と落ち着きながらも緊張感をもってすかさず答え応じてくれます。
安田さん神だ!
普段から夜警という名の深夜徘徊をしているだけだと思っていたけど、こんな時にはちゃんと頼りになるスーパーおじいちゃんなんだな。
ブル感激!孫になりたい!
おじいちゃんを見送ったあと、現場はもうパニックですよ。
だってね、フロントだけが鳴ってるんじゃないんですよ。当然全部屋の報知器が鳴ってるんですよ。
そうこうしているうちに部屋からワラワラと宿泊客が出てきて「怖いんですけど」みたいなクレームが飛び交います。
「落ち着いてください!もう消防がきますのでそれまで一旦外に出てください。」
くそう、こんなことなら安田さんにもいてもらったほうがよかったじゃないか。
俺だけじゃ捌ききれんわ!なんて思ってたところに消防到着。
調査してもらったところ、まあよくある話し誤報でした。
宿泊客へ頭を下げ続けてなんとか客室へ帰ってもらい、やっと落ち着いたから仮眠でも取ろうかなと思っていたところ、ん?何か忘れてるな?
そうだ!安田のじっちゃんはどうしたんだろう。
事が解決したせいですっかりその存在を忘れていました。
ちょうどそのころ携帯が鳴ったので出てみると、安田さんでした。
「ブルさん!ちょっと来てくださいよ。助けてもらえませんか!?2階のトイレです」
ん?火災報知器の件は解決済みのはずだけど。
ああ、この騒動で気分を悪くしたお客様がトイレで吐き気を催しているんだろうなと思いトイレに駆けつけます。
「お客様!大丈夫ですか?火災報知器の件は誤報でしたよ。お騒がせしてすみません!お水飲みませんか?」
するとトイレの中から聞き覚えのある声が。
「だから○○だっていってんだろうがよー!」
!!さっきの酔っ払いだ。やれやれ。また住所言ってるよ。
安田さんも困惑して顔が青ざめている。
「安田さん、ここはもう放っておきましょう。酔っ払ってるだけなんで時間が解決してくれますよ。」
「ええ…。ところでブルさん。火災報知器…って?」
申し訳なさそうにおそるおそる聞いてくる。
「いやいや、安田さん。さっき報知器鳴ったら飛んで火の元の確認に行ってくれたじゃないですか」
「さっきのベル、あれ火災と思ってませんでした…。トイレの個室にある呼び出しベルかと思ってトイレに駆けつけたらこんな状態だったんで…」
「…」
安田さん、安田さんは悪くないよ。お勤めご苦労様です…
悪いのはフロント前の酔っ払いを放置していた私の責任です。と自分に言い聞かせ向かったのはさっきの酔っ払いがこもっているトイレ。
「くぉらぁぁあああ!出てこんかーい!!」
トイレは既にもぬけのから。
吐瀉物にまみれたトイレからは異臭が…
今日は厄日だ、なんて思っていたら清掃委託会社のおばちゃんがたまたままだ残っていたみたいで助けてくれました。
そして酔っ払いを部屋まで案内してくれたそうです。
「ブルさん、よかったですなー!はっはっはっ」
安田さんの深夜のテンションとは思えない笑い声が響き渡る。
いや、待てよ?深夜でこのテンション、つまり子ども時代のお泊り会のテンションがデジャヴした瞬間だった。
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